いま「現在」という時間の持つかけがえのなさを実感する、ということは、とても難しいものです。
だからこそ、過去、あるいは未来から「現在」を眺めてみると、思いがけない価値を発見できたりするものです。
今回は、そんな法則、“過去・未来の現在化”の法則を取り上げます。
[Chapter 1] 事例から法則を読み解く
ふらっと入ったBarを尋ねてきたのは「若かりし頃の親父」だった―昔のウイスキーCMが今でも泣ける。
最初にご紹介するのは、SUNTORY OLDというウイスキーの、随分昔のCMです。
短いですがとても感動的ですので、ぜひ以下ご覧いただければと思います。
SUNTORY OLD |タイムスリップ・バー
とある男性が50歳の誕生日に、ふらっと訪れたBar。
少し違和感のある会話の後、
マスター!生まれたよ!男の子だよ!
とBarに飛び込んできた、別の男性。
それがなんと「若い頃の自分の親父」だった、という、不思議なストーリー。
自分の生まれた日に、いつの間にかタイムスリップしていたという設定です。
ねぇ、あなたも一緒に飲んでくださいよ。
そう言って、若かりし頃の親父に絡まれる、息子。
きっと、大物になりますよ、うちの子は。
目を輝かせながらそう話す親父に、息子は目を合わせられません。
しかし、親父は続けてこう話します。
いや、本当はそんなこと、どうでもいいんですけどね。
ただ・・・
…ただ?
聞き返す息子。
返す親父の言葉は、
いつか一緒に飲みたいですね、男同士で。
その言葉を聞いた息子は、なんともいえない表情を浮かべます。
少し目が潤んでいるようにも見えます。
そんな二人にマスターが差し出すのが、息子と同い年生まれだというウイスキー。
そして二人で、乾杯。
誰にも信じてもらえないけど、いままさに親父の夢が、叶った瞬間です。
たった1分間の映像に、これだけのドラマ、感動を詰め込めるものかと唸ってしまうほどの名作CMだと思いますが、今回ご紹介する法則の目的・効果は「何気ない価値を再認識させること」ですので、その点について少し補足します。
少し野暮ですが、このCMのストーリーにのっとって解説するならば、息子はこの出来事を通じて
決して大物にはなれなかった。
男として偉大な実績なんて残せなかった。
そんな人生を歩んできた自分でも、
親の夢を叶えてあげられた。
そんな男くらいには、なれたんだ。
自分の人生をまるごと肯定してあげられるような、そんな強い感動が、胸に押し寄せていることでしょう。
何気ない今、この瞬間は、親父のひっそりとした感動、願望の上に成り立っている。
「自分」「いま現在」という、一人称/現在進行形の視点だけでは価値を感じられなかった“いまこの瞬間の自分”に対し、「他人(親)」「過去」という三人称/過去の視点を持つことで、強い誇りが生まれています。
このように、時間軸(と、それを見つめる人)をズラすことで、いま現在の持つ価値を再認識するという現象が生まれます。
時間軸は、「過去」だけでなく「未来」にズラしても、同じような効果が生まれます。
以下のNature MadeのCMは、まさにそのことを教えてくれる映像です。
Nature Made|ワタシは、ワタシを、シアワセにも できる
駅のホーム。隣りに座るのは、5年後の自分。
5年後の自分が元気そうなら、今の自分もきっと、そこに繋がっているはず。
永作さんの演技が、とても愛らしいですね。
時間軸をズラす表現なため、どこまでいってもフィクションの域を出ることはありませんが、大事な視点に気づかせてくれる法則だと思います。
>>>>>>>>>>>>>>>>>
[ “過去・未来の現在化”の法則|Point ]
◎「過去」「未来」の視点から、いま現在の価値を考える
◎過去・未来を、いま現在に「タイムスリップ(再現)」させて価値に気付かせる
>>>>>>>>>>>>>>>>>
以降では、この法則を念頭に置きながら、活用イメージを深めていきます。
[Chapter 2] 法則から事例を読み解く
第二次世界大戦の悲惨さを「いま現在」に再現すると?
戦争の悲惨さを、忘れてはならない。後世に伝えなければならない。
そんなフレーズは耳にタコができるほど聞いたことがあるかと思います。
ものすごく大切なことであることに間違いはありませんが、「戦争の風化」を留めることは、実際はとても難しい問題です。
少なくとも、写真や映像を用いた“過去の現在化”は使い古された技法で、なかなか人々の関心を引きつけられません。
そんな難問にチャレンジしたのが、アーティストのMarkus KISON氏。
彼は、第二次世界大戦末期の1945年、米軍・英軍がドイツ東部のドレスデンに対して無差別爆撃を行なった事実を人々に思い起こさせるために、こんな仕掛けを街の橋に施しました。
Touched echo
ドレスデンを見おろす高台の鉄柵。
そこに肘をつき、てのひらを耳にあてると、骨伝導によって飛行機の降下する音や爆撃音が響いてくる。
第二次世界大戦末期の1945年、米軍・英軍はドイツ東部のドレスデンに対して無差別爆撃を行なった。
当時の市民は空襲の爆音を、この作品を聴くように耳を覆って顔を伏せてしのいだという。
作品が都市の悲惨な記憶を語り継いでいる。
文化庁メディア芸術祭 優秀賞作品説明より
骨伝導、という技術はなかなか慣れ親しみがないと思いますが、上図のように「耳を覆うように手のひらを当てて、肘を鉄柵に当てる」と、骨を伝って音を鼓膜に届けることができるというギミックを利用しています。
「肘を当てるとどうなるのだろう?」
そんな興味から実際に肘を当ててみると、耳元で、当時の様子が脳内に響き渡る。
じっと目を閉じて想像を巡らせることで、ある意味、視覚的・説明的に当時の写真や映像を見せられるよりもずっと、戦争の悲惨さを心に訴えかけることができるのではないでしょうか。
日本における第二次世界大戦=原爆の悲惨さの再現を試みた事例で言うと、PEACE SHADOW PROJECTが当てはまるかもしれません。
ピースシャドウ。
それは核なき世界に向けてあなたの存在を影として焼き付けるアートプロジェクト。
原爆の閃光によって生み出された「死の影」の記憶をわたしたち人間の意思によって「平和の影」へと変えていく試みです。
参加者は、WEBサイトやワークショップを通じて「影の署名」を投稿することが可能。
またこのサイトを通じて、世界中の人々の”核なき世界への想い”を共有することができます。
原爆といえば、瞬時に広島や長崎を高温で焼きつくし、その場にいた人たちを蒸発させて「影だけを残した」ことでも有名です。
その悲惨さを忘れない、という意味を込めて、リアルでもWEBでも自分の影を焼き付けることで、原爆を忘れないというメッセージを発信するプロジェクト。
両事例とも、かなり表現(アウトプット)の趣向が凝ってはいますが、あくまで「過去を現在化することによる効果」としての側面に光を当て、“過去・未来の現在化”の法則の事例のひとつとしてご紹介しました。
[Chapter 3] ブレスト・トライアル
「原発の悲惨さ」を再現できないか?
上記の戦争の事例を引き合いに出せば、当然、原発に対しても応用可能であることに気が付きます。
3.11、東日本大震災という大きな事故があったにも関わらず、いまだ日本、そして世界でも、原発を根絶するには程遠い現状があります。
で、あれば。
原発が日本、そして世界各地で暴発してしまった後の絶望的な未来、いわゆる「ディストピア」を描き出すことで、いま現在のかけがえのなさを訴えることは可能でしょうか。
実は、筆者がまさに学生時代、3.11に直面したその年に、こんなWEBサイトをつくっていたことを思い出しました。
ただの学生として、ボランティア活動や節電を呼びかけるビラ配り活動等には参加してはいましたが、それだけしかできることがなくて。
何かしたいのに、何もできない。
でも、何もしないことだけは、きっと不正解なのだと思ったから。
ジャーナリストを目指していた友人と、広告マンを目指していた筆者と、後輩のふつうの女の子と。
いま目の前の現状に対し、正解など無い三者三様それぞれの視点から、ひとつのテーマに対して思っていることを書く、というWEBサイトをつくっていたことを思い出しました。
その中で取り上げたテーマのひとつが、「ディストピア」。
上記リンクをクリックいただければ、とても拙いサイトが顔を覗かせると思いますが、そのトップを飾る画像は「原発が日本、そして世界各地で暴発してしまった後の絶望的な未来」を象徴するように意識して撮影したものでした。
いま見返せば、あまりの不出来に穴があったら入りたくなるようなクオリティですが…苦笑
でも、当時はこれで間違ってなかったのだと、そう思いたいですね。
また、その当時の記事で取り上げた映像作品のひとつに、blindという、ディストピアの世界をありありと映したものがあります。
blind
blind from YUKIHIRO SHODA on Vimeo.
とても怖くなる作品で、当時、震えるような感覚に襲われたのを覚えています。
もしご興味ありましたら、ぜひご覧ください。
※その他の類似施策は、以下URLにまとまっていますのでご参考ください。
アイデアの補助線(Pinterest)| 過去・未来の現在化
※記事の更新情報は、Facebookページにて随時配信中です。ぜひチェックしてみてください。








